人権ワークショップ 座談会レポート

「障害を理由とする偏見や差別」を考える座談会
「知る」「仲良くなる」が
バリアフリーへの第一歩

障害と一口に言ってもさまざまだ。視覚や聴覚、手足に不自由さを持つ身体障害、発達に制約のある知的障害、精神的な病気やうつ病などの状態による精神障害、脳の働き方の特性による発達障害。障害も一人ひとりの個性という見方が広がっている昨今でもまだ、障害を理由にした差別や偏見がある。今回は、当事者や当事者の親、障害者を支援する人たちに集まってもらい、どのような問題に直面しているのか、お互いを理解し合うために私たちにできることは何か、話してもらった。

・参加者【後列左から】
江口歩(えぐちあゆむ):新潟市を拠点とするお笑い集団NAMARA代表。脳性麻痺ブラザーズなどをプロデュース。自身も怪我による車椅子ユーザーの経験があり、身体障害者5級の手帳を持つ。
小竹康裕(おだけやすひろ):MAZAQ代表取締役。障害者や引きこもりの人たちに就労を支援する施設を運営。17歳の娘が小学1年で「ミトコンドリア病、メラス」を発症、知的障害を持つ。
【前列左から】
江口知美(えぐちともみ):(一社)I have a dream事務局。障害者人材と企業のマッチング事業などを行う。
谷美樹(たにみき):ヨガ講師。脊椎損傷により下半身麻痺となり車椅子で生活。チェアヨガや車椅子ヨガを広める活動を全国で行う。
殖栗寛倫(うえぐりひろみち):(一社)Accessible Niigata(アクセシブルニイガタ)代表。共生社会を目指し、ユニバーサルツーリズムやユニバーサルスポーツを推進。

思い込みや決めつけが差別・偏見のもと。
解決の第一歩は「心のバリアフリー」

江口歩(以下江口):障害を持つ当事者が谷さんと僕、支援しているのが殖栗さんと江口さん。小竹さんは福祉施設を運営しながらお子さんに障害がある。当事者とサポーターが入り混ざったメンバーですね。まずは、これまでにどんな差別や偏見を受けたか、どんなトラブルがあったか、車椅子ユーザーの谷さんから聞いてみましょうか。
谷美樹(以下谷):トラブルではないんですが、障害者に対する勝手な思い込みが、障害者の可能性を狭めていると感じることはあります。はじめから「無理だよね」と決めつけてしまうと、本人も「できない」と行動を起こさなくなってしまう。
小竹康裕(以下小竹):就労支援をしていて思うのは「この仕事は(障害者には)無理でしょう」という思い込みが多いこと。これこそ差別・偏見。だからまず、業種の選択肢を広げていこうと、一般社会にある産業にどんどん出ていくようにしている。IT、工業、農業、飲食、管理業務、清掃。「特性は与えられた環境によってはじめて開花する」というのが私たち夫婦の持論。環境があれば特性が生かされる、バリバリ働いて持続できる。

殖栗寛倫(以下殖栗):無知、先入観はありますね。自分自身、入浴介助が必要だろうと思い込んだ親しい方に「これしましょうか」って言ったら「いつも自分でしてる、できる」とちょっとした口論に。先入観を取り払って、個々の特性を理解するような姿勢が第一歩だと改めて思った。
江口:「できるできない」って、勝手にこっちが決めちゃいけないよね。谷さんなんか、車椅子ユーザーでありながら、身体を使うヨガの講師をしてる。どうして「できる」って思えたの? 環境?
:私自身、決めつけや世間の常識、当たり前から外れることにまず抵抗がなかった。「できる」と思っているからやっているというだけですが、ただ環境には恵まれていて、あまり障害者扱いをされてこなかった。中学生の時は「なんで立たないの? 早く立ってよ」って友達が言ってきたり。周りにも車椅子の人がいなかったこともあり、カッコ悪いとか大変とかのイメージを持たなかった。

小竹:うちの施設には、小中高の頃は、ほとんど話すことができなかった方がいるけど、来てみたら普通に話せる。今、デザイナーとして仕事をしているのを見ていると、「話せない」というのは何だったんだろうと思うくらい。
江口:それも環境なのかな?
小竹:娘に障害があるので、こちらに当事者の意識があること。言い換えればバリアがない。あと接し方は常にカジュアル。先生対生徒でもない、友達と話す感覚です。
江口知美:環境といえば、就労先の環境を整えることはすごく大事。本人に「変われ、がんばれ」って言っても無理。まず話を本人から聞いて、同時に彼らが接する人や周りの状況までを見ていかないと、長続きしない。
小竹:精神疾患の方は神経質な人が多くて、細かいところが気にかかり、仕事もきっちりしないと気が済まない。それって企業にとって面倒なところもあるけど、だから「排除する」のは違う。適性を生かせる業種を探したり、その方が働きやすい環境を整えたり。多様性ある社会ってそういうことなんじゃないかな。
殖栗:昨年、法改正で事業者に義務化された「合理的配慮の提供」もまさにそれ。物理的な対応だけでなく、コミュニケーションをしっかり取ったり、障害の特性に応じて柔軟な対応をしたり。とはいえ、まだまだ言葉だけが一人歩きしている気がしなくもない。よく言われるけど「心のバリアフリー」が必要なんだと思います。

健常者と障害者。
バリアをつくっているのは誰?

江口:「無理だろう」っていうのは偏見だし、「健常者のジャンル」って線を引くのは差別。それを取り払ってみたら、障害者も健常者と同じ「得意不得意」があるだけなんだよね。うちの脳性麻痺ブラザーズも「漫才師にさせてくれ」って来た時は無理だろうと。「うううう」ってしか言えないから何を言ってるか分からない。それで「お前の言っていることを通訳できるやつを連れてこい」と。そうしたら養護学校の後輩を連れてきた。彼も脳性麻痺で車椅子だけど、コンビを組んで映画にも出演した。

江口知美:ダウン症の娘さんを持つ知り合いがいるんですが、小さい頃は普通学級には入れてもらえなかった。兄弟も、お姉ちゃんがダウン症ということでいじめられたり暴言吐かれたり。でも今、娘さん、ダンスチームに所属しているんですね。発表会や大会に出場して、どんどん人前に出ていっている。アルビレックス新潟の就労体験プロジェクトでも感じますが、エンターテイメントって、一歩踏みだすいいきっかけになると思う。
江口:エンターテイメントの語源はラテン語で、エンターは「一緒に」、テイメントは「維持する」。だから、バリアを越えた共生社会にもピッタリなんですよ。人前や明るいところにどんどん出ていってほしいね。

差別や偏見を防ぐために
私たちにできること

江口:もう一つのテーマに移りましょうか。障害を理由とする差別や偏見を少なくするために、私たちに何ができるか。
殖栗:「知る機会」をたくさんつくりたいですね。特に若い世代に、障害者と接してもらうことで「共生」を肌で学んでもらいたい、そうすれば、偏見のない大人になれるはず。
江口:固定観念に捉われていない若い世代に、心のバリアフリーを浸透させていくってことね。
江口知美:ただ、実際には「知る機会」がとても少ない。それで、障害者の受け入れ側である企業にも、もっと知ってもらいたいと思ってきっかけづくりを進めています。例えば代表一人が「(障害者雇用を)増やしていこう」と旗を上げても、現場の社員がどう対応すべきか理解していなければ、結局は離職につながる。キーワードは「ごちゃ混ぜの交流」。企業の人などの健常者と障害者だけでなく、違う福祉事業所の障害者同士、家族、サポーター。アルビレックス新潟の就労体験も、いろいろな立場の人たちが混ざり合う機会になって、年々、雰囲気も環境も良くなっています。

障害者雇用は
企業の生産性を上げる

小竹:障害者雇用って面倒と思われるかもしれませんが、実は、メリットが大きいんです。障害者に対応すべく環境を整えれば、自ずとホワイトな企業体質になるし、障害者が順応できるマニュアルを作成すれば、社員にとっても行動指標になる。結果として生産性が上がるし離職率も下げられる。だから、障害者雇用は経営戦略の一つと捉えていいんじゃないかと、これは大きな声で言いたい。

江口:障害者イコール生産性が上がらない、これも思い込みだよね。今、人手不足だし、目先のことしか見られなくなっているかもしれないけれど、大きな目線で見れば、メリットがあるってことか。
小竹:現場では、障害者に依頼される仕事は限られていて、部品を組み立てて2円とか。当然、技能レベルも上がらないし、やる気も生まれない。先ほど、障害者の業務を増やしていると言いましたが、今、民間企業と並んで、指定管理者を申請したり、外に営業をかけたりしています。障害者に難しい業務は委託したり下請けに出せばいい。これは一般の製造業と同じ。障害者も業務のレベルが上がっていけば、戦力になれるのは間違いないですから。

友達になる。興味を持つ。
「障害者」と明るくポップに手をつなごう

:偏見や差別を防ぐためには、友達になることが第一歩になると思っています。例えば私と会う時、初対面の方だと、バリアフリーが完備されているお店を探してくれる。でも実際には、そこまで完璧じゃなくても入れるお店はたくさんあって、仲のいい友達なんかは、出かけたついでに「1階にカフェがあるから行ってみよう」と行けるお店の幅を広げてくれる。
 障害のあるなしに関わらず、知らないことに対して人は恐怖とか不安があって、どう対応していいか分からないもの。まずは知って、友達になって「この子とだったらあそこ行けるな」とか思ってもらえれば、障害者も外に出る機会が増える。

江口:「知る」って今日のパワーワードね。逆に「知ってくれていないところ」ってどこなんだろう?
殖栗:知ったうえで整備をしているんだけれど、目的通りに使われていない場所はありますね。ある公共施設の思いやり駐車場では、出入口などの一番近いエリアが全部思いやり駐車場になっていて、スペースが広くたくさん停められるだけに「誰でも使っていい」と思われ、健常者の方々と思われる車両がたくさん並んでいる。
:車椅子ユーザーは乗り降りの際、ドアを全開にしないと降りられないので、あの幅が必要で、いつも助けられています。ただ、無断駐車を防ぐために三角コーンが置かれていることがあって、一人で出かけた時に困ることがあります。同乗者がいないと、まずそのコーンを移動できず、利用が難しくなることがあります。「停めないで」という優しさと同じように、実際に使えるかたちで思いやりが広がってくれたら嬉しいです。
殖栗:点字ブロックにもそんな問題がありますね。上に滑り止めのマットや足拭きマットを敷いていたり、案内看板を上に置いたり。だいたい点字ブロックは通路の真ん中など目立つところにあるので、置きやすいんでしょう。しかし、それがバリアをつくってしまっていると理解していただきたい。

江口:街中も、車椅子の人に走ってもらって、どこが不便とか、この居酒屋入りやすいとか、そういうのを動画やマップにしたらいいと思う。これ、10年くらい前から言ってきたんだよね。駅や店も「車椅子で便利」って言えたら、健常者にも使いやすくやさしい環境だっていうこと。さっきの話にもつながる。
殖栗:その辺はまさに私たちの仕事。障害者の特性にあったホテル、利用しやすい店などの情報は、外出の選択肢を広げる意味でも整理整備していきたい。障害者が行きやすいところ、暮らしやすい場所は高齢者にも優しいってことだから。
江口:最後にもう一つ言いたいのは、もっとポップに障害者のことを扱っていいんじゃないかってこと。障害のある方によるアイドルグループとか、いいと思うんだよ。40年前に提案した時はNGだったけど、例えば20年前にやった「こわれものの祭典」は当初、すごい批判をもらったものの10年後には新潟市特別賞をもらった。世に出して歩き始めれば、環境とか認識は変わっていく。
 障害者への理解も「面白い」から始まっていいと思う。面白いって興味が湧けば、自然と「知ること」につながる。それが「理解」に至るかもしれない。ここにいる人たちが束になって、どんどん「エンターテイメント」に巻き込んでいってほしい。

「知ろうとする気持ちが第一歩。障害のある人のこと、どれくらい知っていますか?」