人権ワークショップ 座談会レポート

同和問題と人権侵害×住吉小学校6年生
部落差別とどう向き合うのか
自分自身に問いかけた

新発田市立住吉小学校では、低学年から系統的に「じんけん」学習に取り組んでいる。高学年になると、5年生では新潟水俣病による差別、6年生では部落差別(同和問題)から「じんけん」を学び、「渋染一揆」や「西光万吉の生き方」などの歴史や、現在も続く「結婚差別問題」について考えてきた。今日、児童は「部落差別の解消の推進に関する法律(部落差別解消推進法)」について考える。「この法律に罰則は必要か」。そんな問いから始まった6年1組の授業を訪ねた。

「部落差別解消推進法」を振り返って

「前回の授業では2016年に制定された部落差別解消推進法について、どんなことが定められているかを学びました」。山田雄太先生が振り返った。「この法律には、"部落差別がある"と国が認めたこと、国や地方公共団体が解消のために取り組む責任があることが書かれていたね。では、この法律ができて部落差別はなくなったかな?」。児童は一斉に答えた「なくなっていない」。「それはどうしてなんだろう?」。

 手を挙げて、意見を述べる児童たち。
「法律を理解していない人が多いから」
「差別はダメと分かっているけれど、自分のしていることは差別だと思っていないから」
「差別と思わないで、見て見ぬ振りをしているから」
「法律が知られていないから」。

 先生は法律を「みんなが守るべきルール」と言い換えて問いかけた。「ルールを守らないとどうなる?」。
「罰せられる」。と児童たち。
「それでは、みんな、法律の中に"罰"が書かれた条文はあるかな?」。
「ない」。
「ではここから考えていこう。罰は必要か、必要ではないか」。

部落差別に罰則は必要か?必要ではないか?

 児童たちはワークシートに自分の考えを書き込んだ。「必要」「必要ではない」「悩む」の3つの選択肢から一つを選び、理由を記す。「悩む」と書いた理由はこうだ。「法律だから罰があっていいと思ったけれど、自分自身が差別しているかどうか分からない人もいると思った」。無意識、無自覚な人を罰するのはどうなのだろう?という迷いが見えた。

「では必要と思う人、理由を教えてください」。たくさんの手が挙がった。
「罰があれば差別をしなくなると思う」
「罰がないと『差別してもいい』となってしまう」
「罰があることで、自分のしたことが差別だと気づける」
「罰があれば、差別する人が減ると思う」などの意見が出た。
 丁寧に聞いていくと、「必要」を選んだ児童たちにも迷いがあった。「罰があっても、差別だと気づいていない人は、またしてしまうかもしれない」
「だから何が差別かを理解させた方がいいと思う」。
子どもたちの複雑な思いが見えてきた。

自分の中の差別と向き合うこと

「さっき『またやってしまうかもしれない』って意見があったよね。法律ができても、差別は簡単にはなくならない、という話を授業でしたよね。だから、『罰則があれば解決するの?』という疑問が生まれてきていると思う」。

 6年1組ではこれまで、部落差別(同和問題)についていろいろな角度から学んできた。部落差別に立ち向かってきた人たちがいること。差別からの解放を目指した全国水平社が、人間の尊厳と平等を訴えて水平社宣言を出したこと。それでも差別されてきた歴史があった。先生は言った。「だからみんな、差別をなくすための手段として罰が必要だと思ったんだと思う。でも、みんなの声を聞いてみると『罰則があっても心から変わらなきゃ意味がない』という立場の人もいるね」

「差別は許さない」。思いを行動につなげよう

 先生は続けた。「大切なのは『差別は絶対に許さない』という思いをもち、なくすために一人ひとりが考えて、決めていくこと。それは、だれがやること?」。児童の一人が答えた。
「周りにいるわたしたちが頑張らなければいけないと思う」。自分たちに引き寄せて考えることを、新潟水俣病から学んできた。「そう。みんなが、自分の言葉や行動に責任を持つ。それが第一歩だね」と先生。

 最後に児童たちは、今日の授業を振り返って感じたことをワークシートに記し、発表した。
「差別はあってはならない、してはいけないと考えて生きていきたい」
「『なくならない』ではなく、自分から『差別をなくす』行動をしていきたい」
「罰則を作るなら、その前に、何が差別なのかを教える」
「『法律があるから差別しない』ではなく『差別はダメだからやらない』」
「法律や罰則がなくても、差別のない社会にしたい」

 先生は、みんなへメッセージを伝えた。「『罰が必要かどうか』から考え始めて、見えてきたのはもっと大きなテーマ『差別を本当になくすにはどうしたらいいか』だった。私たち一人ひとりが『絶対になくす』『あってはいけない』と思って行動すること。それが部落差別をなくしていくことにつながる。今いる教室から、学校から、地域から、思いを行動につなげていってほしい」。

人権教育、同和教育の柱は「自分もみんなも大切に」

 授業後、校長の中野隆一先生と担任の山田先生に話を聞いた。「住吉小学校では人権教育、同和教育に力を入れていて、まず人権に「であう」ところから始め、学年ごとに、部落問題をはじめとする様々な人権課題から学んでいます。中核にあるのは『自分もみんなも大切に』という合言葉です」と中野先生。
続いて山田先生は、人権教育、同和教育で大切にしている姿勢を語った。「『自分を見つめ直すこと』を大切にしています。耳障りのいい言葉で、分かったつもりになるのではなく、差別を許さない行動に結びつけていきたい」。
 差別を「自分のこと」として考える。学んだこと感じたことを行動に移す。こうした学びを積み重ねる人権教育、同和教育が、児童一人ひとりの心や態度を育て、「差別のない」社会の担い手を送り出していく。

「差別解消の第一歩。わたしは何ができるだろう?」